整理/補完/肯定①

「整理」とは、コンテンツを構成する各要素を机のような水平面に並べ、全体を2次元的に把握しやすくした上で行われる編集作業である。

編集者は、著者からのアウトプットをインプットし、適切に「整理・補完・肯定」した上で、著者へのアウトプットを行う。著者からのアウトプットで得られたコンテンツは、その全体を細かく分割することで、編集の対象となる。この分割されたあとの最小単位を、ここでは「要素」と呼ぶ。整理/補完/肯定は、この「要素」に対して行われる処理の内容である。

まず「整理」について。整理は編集作業のもっとも一般的な方法で、例えば次のような作業が含まれる。

①移動
②分類
③結合
④分割
⑤階層化

①移動は、本が単線的なメディアであることに起因する作業である。本は、コンテンツの各要素が前後に配置されることで構成される。著者の持つコンテンツは、本という形態へと置き換えられる過程で、この前後関係に基づいて再構成される。この、本という形態を前提とした前後関係の調整が「移動」である。A、B、Cという要素があった場合に、A→C→Bという並びが適切なのか、B→C→Aという並びが適切なのか、C→A→Bという並びが適切なのかを判断するのが、「移動」の作業になる。

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聞くこと/話すこと

こうして編集者と著者との間で「話す→聞く→話す→聞く…」のやり取りが続くとき、編集者からのアウトプットが次の条件を満たしている場合、言葉が交換されるたびに、レンガはよりうまく積み上がっていく。

編集にとって重要な仕事は数多くあるが、もし「もっとも重要な仕事は何か?」と聞かれたとしたら、次のように答えるのではないかと思う。「聞くこと/話すこと」。そして「何を聞くのか? 話すのか?」と聞かれれば、それはもちろん「言葉」ということになる。つまり編集のもっとも重要な仕事は、言語化の作業である、ということなのだ。

「聞くこと/話すこと」の重要性は、デザインや印刷のように、視覚的に表現されるものについても変わりはない。視覚的要素も一種の言語であるという事実とは別に、編集者はデザイナーや印刷所に言葉を使ってイメージを伝えなければならないし、デザイナーや印刷所もまた、作成したイメージについて言葉で説明できなければならない。

また言葉にすることは、企画書をベースとしつつも刻々と変化する完成イメージに対して、柔軟に対応するための方法であるとも言える。僕たちは言葉を話し、聞きながら、イメージを確認し、整理し、変更を加えていく。言葉は、こうした変転するイメージに過不足なく対応し、臨機応変にその形を変えていくための有効なツールなのだ。

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空間的/時間的

僕たちは、かつて町のいたるところに空き地を持っていた。そこは土管こそなかったかもしれないが、誰のものでもないような、誰が入ってもよいような、名前のない、匿名的な場所として放置されているように見えた。

「本を作る」という行為が、企画書によって提示された枠組みを逸脱するものであるという条件下で、編集者はいったいどのような振る舞いをすればよいのだろうか? 現在は、新しい現在によって不断に更新され続ける。現在は過去となり、未来は現在となって、さらに過去へと押し流されていく。プロセスとは、こうした時間的な流動体であった。企画書は、いわば企画書が作成された過去と、企画書がイメージとして提示する未来という2つの時間を、1つの文書という現在に定着させたものであるといえる。

企画書には、企画書を見ている現在、企画書が作成された過去、本の完成イメージとしての未来が、三層のレイヤーとして重ねられてある。企画書の過去には、プロセスとしての現在によって、顕在的/潜在的に更新が加えられていく。企画書の未来もまた、同様に更新が繰り返されていく。このような動的なプロセスの中で編集者は、企画書に刻印された「過去/未来」と、プロセスのただ中にある「現在」とを参照し合い、その揺動する振り幅を、じかに感じ取らなければならない。

この、編集者が時間軸の中で感じ取る行為には、

  • 過去/未来に照準を合わせる/照準を外す
  • 過去/未来を思い出す/忘れる
  • 過去/未来を肯定する/疑問を付す

が含まれている。編集者は時間の推移の中で、文章や写真、デザイン、人といった空間的な振り幅を常に編集し続けなければならない。具現化されたこれらのアウトプット、およびその集積であるところの完成イメージは、時間軸に沿って刻々と変化する。人の意思は無軌道に逸れ、人が人の意思を完全なコントロール下に置くことなどできるはずがない。このような「人」の不確定性の中、基準としての「企画書」の上には、本の制作に携わる人たちからの「アウトプット」が積み重なって、基準そのものに変化を促していく。

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「企画書」とは何か?

このように「企画書」は、1次的には本というモノの「商品的な土台」を確立するために使用される。

編集者は、事前に本の「完成イメージ」を作成し、制作に携わる人との間でイメージの共有を行う必要がある。それは、「何も作らない」編集者が「本を作る」人の間に立ち、進むべき方向と形を明確にするための事前準備と言ってよいと思う。そしてこの「完成イメージ」の共有に使用するもっとも重要なツールが、「企画書」である。

編集者は企画書を作成し、それをもとに、すべての制作者との間でイメージを共有する。企画書の内容に不備や理解しづらい箇所があれば、それは共有に支障をきたすし、誰か、もしくは全員が、異なる方向を向いて歩きだすということにもなりかねない。企画書は交通整理の基準であり、すべての参加者が持つべきルールブックである。

本の「企画書」の場合、例えば次のような要素が必要になる。

  • 書名
  • 体裁(判型/ページ数/本文色)
  • 発行時期
  • 予定部数
  • 予定価格
  • 対象読者
  • 概要
  • 目次
  • 採算見積もり
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視覚的/物語的/商品的

本の完成イメージを作り上げることは、本を1つのパッケージとして考え、様々な側面からシミュレーションしてみることだといえる。

本の完成イメージは、机上の空論である。いまだ何の手がかりもないところから、完成した本の全体をイメージし、制作に携わるすべての人の間でそれを共有する。見えないものを共有するのは難しい。いまだ、文章も、デザインも、写真もできていない状態で、本という形あるモノをイメージしなければならないのだ。この完成イメージは、視覚的、物語的、商品的という3つの側面から検討することができる。

視覚的なイメージには、例えば本のサイズやページ数、厚さ(束幅)、紙の色、フォント、本文のデザイン、カバーのデザインなどがある。これらは本を視覚的に構成する要素群で、サイズのように数値で表現できるものもあれば、デザインのように数値では表現できず、紙の上、もしくは頭の中でラフを描いてみることでしかシミュレーションできないものもある。

物語的なイメージを担うのは、目次構成である。目次は台割と呼ばれ、本全体の筋書きがそこに表現されている。筋書きはページと対応づけられ、台割を見ることによって、ページをめくり、読んでいくという読者の体験をシミュレーションすることができる。小説に限らずすべての本には筋があり、ページの進行とともにストーリーが進んでいく。

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