結局のところ「本を作る」ということは、その著者がこれまでに経験してきたプロセスを、それを経験したことのない人に向けて、「本」という形で伝える作業にほかならない。
この人は、これまでどんな人生を経てきたのだろう。どんな仕事をして、どんな知識や経験を得て、どんな価値観を養ってきたのだろう。また、この人は朝何時に起きて、いつ、どこで仕事を始め、いつ仕事を終えて、いつ眠るのだろう。そして、この人はどんな家族がいて、交友関係があり、どんな人と仕事をして、どんな人に、何を伝えたいと思っているのだろう。
本の著者との打ち合わせで、このようなことを考え、そしてこれらの疑問を投げかけてみる。すると、この人がどんな本を作りたいと思っていて、どんな本を作ることができて、その本はどんな人に届けるとよいのかがわかってくる。本は、それを書く人の内側にないものを反映することはできないし、内側にあるすべてを反映することもできない。そして、本はその人のある特定の一部を、ある角度からしか切り取ることができない。
この「特定の一部」とは本の内容であり、「ある角度から」というのは形式である。形式は、演出や仕組みと言い換えることもできる。同じ内容を扱っても、切り取る角度が変われば、それは異なる本になる。内容や形式の大半は、「その人」が持っている「その人性」によって決定づけられる。本に落とし込むことができるのは、その人の総体であり、その人の持っている思想、性格、価値観である。要は、「無理は効かない」ということだ。
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