価値について②

価値とはつまり、「条件によって切り取られたもの」なのだ。その条件を決めているのは人であり、社会である。

価値Aは、価値Aとして1つの価値である。また価値Bは、価値Bとして1つの価値である。そしてまた、価値Aと価値Bを比較した場合の価値A-Bというものが存在する。価値A-Bは、価値Aと価値Bを比較した場合の、相対的な価値である。そしてまた、価値A、価値Bは、それぞれさらに細かい価値として分割することができる。例えば価値Aは、価値A1、価値A2、価値A3のように分割できる。そして価値A1、価値A2、価値A3は、それぞれを比較した場合の相対的な価値A1-A2-A3を、相互の関係性として持っている。また価値AとBをまとめて、価値ABとして扱うこともできる。これを、新たに価値Cと名付けることもできる。

例えば犬と猫は、価値Aであり、価値Bである。犬と猫どちらが好きかという比較は、価値A-Bである。そしてパグとポメラニアンとスピッツは、価値A1、A2、A3である。この時、価値A1、A2、A3の間でどれが好きかという比較が価値A1-A2-A3である。しかし、価値A1とB1、パグとメインクーンを比較することは、できなくはないが少し無理がある。また価値Aを犬、価値Bをキリンとした場合、価値Aと価値B、つまり犬とキリンのどちらが好きかという比較もまた無理があるように感じられる。価値には、隣接した価値と隣接していない価値があり、隣接していない価値の比較は困難である。

こうした価値の隣接の有無、複数の価値の間の関係性は、与えられる条件によってさまざまに変化する。例えば「ペットとして」好きか嫌いかという条件において犬とキリンは比較ができないが、「動物として」好きか嫌いかという条件ならば、犬とキリンの比較は可能である。反対に「動物として」好きか嫌いかという条件において犬と猫を比較することは、妥当でないように思われる。つまり与えられる条件の違い、例えば「動物として」という条件と「ペットとして」という条件とでは、それぞれが「価値の比較対象として定める」範囲が異なっている。

価値には、それをどのような条件によって取り扱うかという、さまざまな枠組み、分類のバリエーションがある。「動物として」「ペットとして」「毛がふさふさな生き物として」「黄色いものとして」「「き」で始まる名前の生き物として」などなど。それぞれの条件に応じて、取り扱われる価値の枠組みは変化し、その枠組みの内側にある価値どうしの比較が可能になる。価値を比較するには、その価値を測る「物差し」としての条件が必要であり、その条件によって、価値の比較結果もまた変化する。そして、条件Xによって価値を比較した結果Xと、条件Yによって価値を比較した結果Yとは、前提となる条件が異なるため比較することができない。

価値とはつまり、「条件によって切り取られたもの」なのだ。その条件を決めているのは人であり、社会である。例えば「高級時計として」という条件、「時計一般として」という条件、「40代の男性が身に付けるものとして」という条件、これら3つのどれが与えられるかによって、「タグホイヤー アクアレーサー」に与えられる価値はそれぞれ異なるものとなる。どのような条件で切り取られるかによって、「タグホイヤー アクアレーサー」に与えられる価値、その価値の高低、その価値と比較される価値の種類が変化する。そしてこうした条件が与えられない限り、価値は存在することができない。

価値は条件によって限定され、限定された場所に価値が生まれる。価値について考える時には、その価値がどのような条件に依拠しているのかについて考えてみる必要がある。価値は、価値のみでは存立しえないからだ。価値を成り立たせている条件に気づいていないと、ある価値を恣意的に信じたり、疑ったり、比較したりすることになりかねない。自分が考える価値がどのような条件を前提とした価値なのか、そして、条件の変化によって価値の構成がどのように変化するのかを見極める必要がある。

価値の条件は、自分の意図とは別のところで、気づかぬうちに変化していることが多い。価値の変化を促すトリガーとなるのはプロセスであり、そのプロセスに関わってくる他者である。他者はたいてい期待とは異なるところから現れ、期待とは異なる結果を残して去っていく。「期待とは異なる」ということが、他者が他者であるための定義なのだ。他者に自身を委ねるということの重要性。そして、自身が他者に寄り添うということの重要性。他者によって「私の価値」は変化を迫られ、組み換えられ、再構成を促されていく。

価値とは、与えられた条件に基づいた分割であり、配列である。価値をどこで区切り、並べ、どの価値と比較するのか。その区切り方、並べ方によって、価値の価値は大きく変動する。価値とはスタティックなものではない。絶えず他者からの影響によって組み替えられ、変化する、ダイナミックな様態である。その動的な様態は、価値を絶えることなく測定、確定し続ける個人や社会によって作られている。この時、価値を決定づけている条件は何か、そのプロセスを見定めることによって、自身が依拠する価値の価値を見定めることができる。そして、次に訪れる変化に備え、いざその変化が到来した時、そこに身を挺することを可能にする。

2020/4/2
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