編集者は確かに本を作っているけれど、その中に編集者が自ら作り出したと言えるものは1つもない。
「編集って、どんな仕事をしているんですか?」と聞かれても、それに対してうまく答えるのは難しいものだと思う。編集という仕事は、そのほかの多くの仕事と同じく、地道で、具体的で、明確なものだけれど、こと「編集」という名がつくと、それはひどく曖昧で、抽象的な概念に変化してしまうからだ。けれど、だからこそ編集という仕事は面白いし、どのような仕事にも見てとることのできる、汎用的な役割なのだと思っている。
「編集」という行為は文字通り、「集めて編む」ことだと言える。「編む」は、「整理してまとめる」と言い換えてもよいだろう。「本の編集」の場合、その対象は文章だったり、写真だったり、紙だったり、デザインだったりする。それらの要素を編集者は集め、整理してまとめ、「1冊の本」としてアウトプットする。
編集者は確かに本を作っているけれど、その中に編集者が自ら作り出したと言えるものは1つもない。編集者は、文章や写真、デザイン等を作る人を見つけてくる。そして、その人たちが作ったものを集め、整理してまとめ、本にする。本を作る人たちが交差する中心に立ち、交通整理を行うのが 編集者の役割なのだ。
この時、交通整理の基準となるのが、「1冊の本」という完成イメージである。編集者はこの完成イメージを、本の制作に携わるすべての人に伝えていく。そして、本の制作に携わるすべての人が共通のイメージを思い描くことができたとき、想像されていた本と完成した本との間のギャップは、限りなく小さなものになる。
編集者は人と人の「間」に立ち、「まだ存在しない本」という見えないメッセージの橋渡しをする。編集者は、いわば1つの媒体なのだ。
「本の編集」という仕事は、例えば次のように整理することができる。
- 本の完成イメージを作る
- 人を集めてくる
- 人に本の完成イメージを伝える
- 人から適切なアウトプットを得る
- それぞれのアウトプットを整理する
これをより簡潔に表現すると、次のようになる。
- イメージを作る
- 人を集める
- イメージを伝える
- アウトプットを得る
- アウトプットを整理する
ここまでくると、本を作ること以外の多くの仕事の中に、「編集」という仕事のエッセンスが含まれることがわかってくる。「集めて編む」ことは、それと意識されることなく、多くの仕事の中にすでに含まれている。そして「編集」的な仕事の精度を上げていくことで、最終的なアウトプットの質が向上することになる。
編集の最終的な成果物は、だから、本に限られるものではない。Webサイトだったり、広告だったり、イベントだったり、自動車だったり、住宅だったり、道路だったり、街だったり、会社だったりもする。いわば、最終的なイメージを作り、最適と思えるアウトプットを得るために人を集め、イメージを共有すること。そして、得られたアウトプットをそのイメージにできる限り近づけていく作業全般が、「編集」という仕事なのだと言える。それは縦ではなく、横方向へと関係をつなげていく、水平的な作業である。
編集者は完成イメージを持っていなければならないけれど、そのイメージに固執しすぎてもいけない。自分のイメージに固執しすぎると、そのイメージ以上のアウトプットが生まれることを妨げてしまう。人との関わりの中で、自分1人では決して叶わなかったであろう成果物を生み出すことが、 編集という仕事の要点なのだ。
だから編集という仕事の喜びのピークは、想定していたイメージ以上のアウトプットを見るときにある。それは、著者の原稿ができてきた瞬間、デザイナーのデザインができてきた瞬間、印刷・製本された本を手に取りページをめくった瞬間、本が読者のもとに届きなんらかの反応が得られた瞬間…といった幾多の瞬間に感じることのできる喜びである。
2020/1/6
littlemanbooks.net